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広島高等裁判所 平成7年(ネ)427号 判決

主文

一  本件各控訴をいずれも棄却する。

二  一審原告の控訴費用は一審原告の、一審被告の控訴費用は一審被告の負担とする。

事実及び理由

第一  申立

一  一審原告

1  原判決中一審原告敗訴部分を取り消す。

2  一審被告は、一審原告に対し、金九〇万円及びこれに対する平成四年三月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  一審被告の控訴を棄却する。

4  訴訟費用は、第一、二審とも一審被告の負担とする。

5  仮執行宣言

二  一審被告

1  原判決中一審被告敗訴部分を取り消す。

2  一審原告の請求を棄却する。

3  一審原告の控訴を棄却する。

4  訴訟費用は、第一、二審とも一審原告の負担とする。

5  担保を条件とする仮執行免脱宣言

第二  事案の概要

一  本件は、検察庁に押送されていた被疑者と検察庁庁舎内での接見を申し出た一審原告(弁護士)が、検察官によって二回にわたり違法に接見を拒否され精神的苦痛を被ったとして、一審被告に対し、国家賠償法一条一項に基づく損害賠償請求として、慰謝料一〇〇万円とこれに対する二回目の接見拒否の日である平成四年三月一八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を請求した事案である。

原審は、検察官が行った二回の接見拒否がいずれも違法であるとして、慰謝料一〇万円とこれに対する右日時から支払済みまで右割合による遅延損害金の支払を求める限度で請求を認容したところ、一審原告と一審被告の双方が控訴した。

二  事実経過

次のとおり付加訂正するほか、原判決第二の一の「事実経過」欄(原判決二枚目表七行目から八枚目裏一〇行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決三枚目表四行目の「原告は、」の次に「可部署に赴き、被疑者Aと接見したが、その際同人から意に反する供述をさせられそうになっているなどと聞かされたため、」を、同八行目の「棄却した」の次に「(原審の第一、二回一審原告本人)」をそれぞれ加える。

2  原判決三枚目裏八行目の「早く伝え」の次に「て、同人を元気づけ」を加える。

3  原判決六枚目表九行目の「原告は、」の次に「第二被疑事件についての弁護人選任届を被疑者Aから受領しておらず、また、同人が前日までの接見の際に被疑事実を否認しており、再度黙秘権について教示する必要があると考えたことから、」を、同一〇行目の「押送されていた」の次に「(原審の第一、二回一審原告本人)」をそれぞれ加える。

三  争点

次のとおり付加訂正し、当事者の主張を補足するほか、原判決第二の二の「争点」欄(原判決九枚目表一行目から一六枚目裏六行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一一枚目表九行目から同一〇行目にかけての「警察官同行室(以下「同行室」という。)」を「警察官同行室(以下「同行室」という。)及び拘置所仮監(以下「仮監」という。)」と改め、同末行の「所があり、」の次に「その他被疑者を連行する押送車を接見に使用することも可能であり、」を加える。

2  原判決一五枚目表八行目の次に改行して次のとおり加える。

「また、押送車内での接見については、被疑者による乗り逃げや籠城の危険性が存在することからすると、これを認めることは到底できない。」

(一審原告の主張)

1  本件各接見拒否の違法性

そもそも検察庁は、被疑者の身柄を拘束する場所であり、しかも実務においては集中押送が一般化していることから、被疑者は長時間にわたって検察庁庁舎内に待機させられている現状から考えれば、法令を定めず、かつ、接見室すら設置していないことは、一審被告の怠慢以外の何物でもない(被疑者Aは、〈1〉平成四年三月五日は、可部署の留置場を午前九時二九分に出房し、少年鑑別所に押送されて同所に身柄が引き渡されたのが午後六時二五分であり、その間取調を受けたのは午後三時一五分頃から午後五時四五分頃までの約二時間三〇分にすぎず、〈2〉同月一八日は、可部署の留置場を午前八時三四分に出房し、少年鑑別所に身柄が移されたのが午後八時四〇分であり、弁解録取の手続に要した時間は午前一一時四五分頃から午後零時五分頃までの約二〇分間にすぎない。)。裁判所では、被疑者は、勾留質問のための待ち時間等の短時間に限って身柄を拘束されるだけであるにもかかわらず、法令で規定され、接見室が設置されていることと比較すればその怠慢はなおさらである。

したがって、検察庁庁舎内に接見室ないし接見に適した場所がないことは接見を拒否する理由とはならない。これを許せば、一審被告の怠慢を、被疑者の最も重要な権利を侵害することで解決するに等しいことになるからである。なお、横浜地方検察庁は、約二〇〇万円の改修費用をかけて庁舎を改装し、平成一一年四月、接見室を設置している(甲二八)。

仮に、一般論として接見に適した場所がない場合には接見拒否は違法でないとしても、広島地検庁舎内には同行室その他接見に適した場所が複数存在するのであるから、接見室がないことのみを理由として、一審原告の接見申出を拒否した青山検事の措置は違法である。

なお、同行室における接見が可能である理由を敷えんすれば、以下のとおりである。

(一) 同行室の小さい二つの房において金網を隔てて接見を行う場合、通常接見室に設置されている仕切板がないことから、隣の房にいる被留置者に聞こえないように被疑者と弁護人等が小声で話すこともできるから、二つの房を供するまでもなく、容易に会話の秘密性を確保することができる。

そもそも、本件の被疑者は少年であるところ、少年鑑別所の接見室は仕切板がなく弁護人等は資料等を所持したまま接見するようになっていることを考慮すると、弁護人等を房内に入室させて接見させても支障はないはずであり、このようにすれば、二つの房を使用しなくても会話の秘密性を確保できることは明らかである。

また、同行室の大きな三つの房で金網越しに接見を行う場合も、同一房内の他の被留置者を、接見中の弁護人等と被疑者との会話が聞こえない程度の場所に離せば済むことであり、被留置者を大幅に収容替えする等の措置は必要ない(被疑者Aは、平成四年三月五日及び同月一八日の接見申出の際には、同行室内に一人で収容されていた蓋然性が高く、他の被留置者の収容状況等を併せ考慮すれば、被留置者を収容替えすることなく、一審原告と接見させることは可能であった。)。

このように種々の方法での接見が可能であり、同行室で待機している被留置者の人数の多少によって接見方法を工夫、選択することもできるのである。

なお、広島拘置所の各接見室は隣接しており、かつ接見室には仕切板が設置されているため、弁護人等や被疑者は、声を大きくしないと会話ができない状況にある。その結果、会話の内容が隣の接見室に漏れるのが現状であるが、弁護人等は必要に応じて小声で話す等により会話の秘密性を確保している。同行室で接見を行う場合には、当然弁護人等はこのような工夫を行うはずである。

(二) 同行室の房の開口部を利用して物の授受を行おうとすれば、弁護人等はしゃがむ、腰を折る等不審な動作をすることになり、監視台の職員はすぐに気付くはずである。また、金網越しの物の授受についても、そのような行為を監視しうる場所で監視することも可能であり(例えば、監視台左前方の房あるいは監視台中央の房の入口部分の金網越しに接見が行われた場合には、監視台右前方の房の入口付近で監視すればよい。)、また、監視台からも弁護人等の手、肩の動き等を監視しておけば、物の授受を十分に防止することができる。

(三) 弁護人等が金網越しに接見を行う場合、同行室の警察官が行うことといえば、被疑者と弁護人等の会話の聞こえない場所で物の授受を監視できる場所を選び、その位置から監視するということにすぎず、殊更特別の行為をする必要もないのであるから、他の被留置者の監視等の他の職務行為を行いながら接見を実施させることも可能なはずである。この程度のことで、他の業務に対し現実的、具体的な支障を生じるはずがない。

(四) 一審被告は、同行室での接見を認めることになれば、他の被留置者の名誉を侵害する事態が生じる旨を主張する。

確かに、弁護人等が同行室で被疑者と接見すれば、弁護人等が他の被留置者の存在を認識する可能性はある。しかし、被留置者の名誉は、大部屋に収容されれば、他の被留置者に収容されたことを知られる等収容自体から生じるものは制限されているうえ、警察官が被留置者の氏名等を公表し、マスコミにより報道されていること、また、刑事裁判は公開であって何人も傍聴できること等により相当制限されているものであり、他方、接見交通権は収容において認められている重大な人権であることを考慮すると、接見交通権の実現のために他の被留置者の名誉が多少制約されても不合理とはいえない。

(五) 一審被告は、検察官が押送要員に対し同行室での接見を実施するために必要な措置を講じるよう指示又は指揮する法律上の根拠がないと主張する。

しかし、検察官に接見させる義務がある限り、検察官が押送要員に対し同行室での接見を実施するために必要な措置を講じるよう指示又は指揮することは当然に可能と解すべきである。

そもそも、検察官は、押送要員に対し、被疑者を留置場から検察庁に移動させたり、被疑者を検察庁庁舎内の一定の場所に待機させたり、あるいは待機場所からどこかに移動させたりすること等を命じ、その戒護を指示又は指揮しているのであるから、接見を実施させるための措置としての戒護についても指示又は指揮することが可能であることは当然である。

2  青山検事の過失

(一) 検察官は、弁護人等から接見の申出を受けた場合には、直ちに接見に適した場所を探し、これを確保して接見を実現すべき注意義務を負っている。

ところが、青山検事は、広島地検庁舎内に同行室、精神衛生室、空き検事室等接見に適した場所があるにもかかわらず、このような場所を探すこともなく、あるいは人員の配置等適切な処置を取ろうともせず、広島地検庁舎内に接見室がないとの理由のみで接見を拒否したものであるから、右の注意義務に違反したことは明らかである。

(二) これに対し、一審被告は、本件各接見拒否当時は接見室のない検察庁庁舎内において立会人なしの接見申出がなされた場合には、これを拒否するのが確立した実務の慣行であった旨主張し、その根拠として各種の実務協議会で弁護士会が検察庁に対し検察庁庁舎内に接見室を設置するよう申し入れたことを指摘している。

しかし、法曹三者間で行われる各種協議会は、実務の運用を改善するために協議するものであって、法律上の議論を戦わす場ではない。そのような協議会において、弁護士会が検察庁に接見室を設置するよう申し入れたとしても、実務の改善の便宜のためにほかならないことは明らかであって、その前提としてこれらの弁護士会が接見室がなければ、接見ができないとの見解であると認めることはできない。

(三) むしろ、日本弁護士連合会の行った検察庁での接見実態調査の結果によれば、多くの弁護士会より接見設備のない検察庁庁舎内での接見事例が報告されており(接見場所は、同行室、検事執務室、空き部屋等)、これによれば、本件各接見拒否当時は接見室のない検察庁庁舎内において立会人なしの接見申出がなされた場合には、担当検事が適宜接見に適した場所を探して接見を認めるのが確立した実務の慣行であったことは明らかである。

また、本件各接見拒否当時、接見室のない検察庁庁舎内における立会人なしの接見の可否をめぐっては、これを明確に肯定する裁判例や学説は見あたらず、かつ、接見室のない検察庁庁舎内における立会人なしの接見を拒否した検察官の行為が違法であるとする裁判例は全くなかったということについても、右のとおり接見室のない検察庁庁舎内においても接見が認められていたことから、裁判例もなく、学会においても議論されていなかったにすぎないのである。したがって、前記の事実があるからといって、接見室のない検察庁庁舎内において立会人なしの接見申出がなされた場合には、これを拒否するのが確立した実務の慣行であったと認めることはできない。

3  一審原告の損害

一審原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料の額は、以下のとおり一〇〇万円を下らない。

(一) 立会人なしの接見交通権は、身柄を拘束された被疑者が弁護人等の援助を受けることができるための刑事手続上最も重要な基本的人権であるとともに、弁護人等からいえばその固有権の最も重要なものの一つである。

(二) また、立会人なしの接見交通権は、国の刑罰権に対する制約として憲法上認められた権利で、国の刑罰権の具体的行使である身柄の拘束・確保を理由に制限を受けない性質のものであり、接見室がないとの理由では接見を拒否できないことはもちろん、戒護に支障があるとの理由でも接見を拒否できないものである。

(三) しかも、本件の被疑者は少年であり、身柄拘束については観護措置が原則であり、身柄拘束場所も少年鑑別所が原則であること、少年鑑別所の接見室は代用監獄の接見室と違って、弁護人等と少年の間の仕切板はなく、弁護人等は資料等を携えたまま少年と膝を交えて接見できること、附添人は少年の捜査に立会できる実情等、法令上のみならず実務上も少年に対しては成人以上に配慮がされており、立会人なしの接見交通権についても成人以上に配慮されるべきものである。

(四) 一回目の青山検事による接見拒否の場合、一審原告は、少年の流されやすい性質に鑑み、勾留場所が代用監獄可部警察署留置場から少年鑑別所に変更されたことを一刻も早く被疑者Aに連絡して勇気づけようと考え、接見のため可部署に電話連絡したところ、広島地検に押送済みであることが判明したことから、被疑者Aの現在する広島地検庁舎内での接見を求めたものであり、接見の必要性及び緊急性は著しく高いものがあった。

また、二回目の青山検事による接見拒否の場合、一審原告は、第二被疑事件につき被疑者Aから弁護人選任届を受領するとともに、同人に対して再度黙秘権等について教示しようと考え、接見のため可部署にタクシーで赴いたところ、広島地検に押送済みであることが判明したことから、直ちにタクシーに飛び乗り、被疑者Aの現在する広島地検庁舎内での接見を求めたものであり、接見の必要性及び緊急性は著しく高いものがあった。

(五) このようにいずれの接見の際も、接見の必要性及び緊急性が著しく高かったことから、一審原告は、青山検事に対し、真摯に粘り強く時間をかけて幾度も接見の申出をしたにもかかわらず、青山検事は、接見可能な状況の実現について具体的な検討を全くすることなく、広島地検庁舎内に接見室がないとの理由のみで接見を拒否し続けたものであるから、その違法及び責任の程度は極めて高く、一審原告が被った精神的苦痛には著しいものがある。

(一審被告の主張)

1  本件各接見拒否の違法性

検察庁庁舎内に接見室を設けて弁護人等が被疑者と接見できるような体制作りをすることは、接見交通権の保障をより実効あらしめるものとして望ましいことといえよう。しかし、検察庁庁舎内には、他に多くの設備が存するのであり、それらの設備の維持管理が必要であるうえ、新たな設備の導入についても、限られた費用で最大の効果を上げるためには、より重要度、現実的必要性の高いものから整備していくことは当然かつ合理的なことであり、そうでなければ、検察庁に付託された重要な職責を果たすことができなくなるのであって、財政的要因による限界は、本質的な属性といわざるを得ない。

ところで、身柄を拘束された被疑者は、検察官の取調べを受けるために検察庁に押送され、取調べ終了後は速やかに勾留場所に戻されるのであって、検察庁は被疑者を留置しておく施設ではなく、検察庁庁舎内において被疑者と弁護人の接見が求められるという場面は、かなり限定的、偶然的要因によって決まる僅少な事例であると考えられることからすれば、検察庁の設備として、接見室あるいは接見設備の設置を専ら最優先するわけにはいかないのである。

したがって、検察庁庁舎内に接見室がないこと自体が怠慢であるとする一審原告の主張は理由がない。

そして、広島地検庁舎内には接見室及び接見に適した場所は存在しなかったから、一審原告の接見申出を拒否した青山検事の措置は違法ではない。

なお、同行室での接見を認めることができない理由を敷えんすれば、以下のとおりである。

(一) 同行室及び仮監においては、罪証隠滅の防止、規律秩序の維持及び少年・女性の被留置者への配慮等の要請から、共犯関係の者を同一の房に収容することを避けなければならないだけでなく、成人と少年、男性と女性もそれぞれ別の房に収容する必要があり、また、少年は、原則として、後記の小さい房に一人ずつ収容するという運用が行われていた。

このような事情を考慮したうえで、同行室の五つの房のうちの一つの房において立会人なしの接見を認め、かつ、その接見の秘密性を保持しようとすれば、(後記(四)の他の被留置者の名誉保護を考慮しないとしても)同行室監視台左方の小さい二つの房を接見の用のために、同時に、かつ、一括して供しなければならないことになる。なぜなら、この小さい二つの房は、いずれも定員(目安)一名の房であることから、これを接見用に使用することにより、他の被留置者の収容替え及び配分に及ぼす影響を最小限で済ませることができるところ(ちなみに、他の三つの大きい房の定員(目安)は、監視台左前方の房が一〇名、監視台正面の房が一二名、監視台右前方の房が六名である。)、この小さい二つの房がいずれも狭小かつ隣接していることや、密閉された同行室内における人声の反響状況を考慮すれば、接見の秘密性確保の見地から、この小さい二つの房を一体のものとして使用し、接見時には被疑者以外の者を留置しないように配慮しなければならないことになるからである。

ところが、平成四年三月五日午後二時二〇分ころの一審原告の接見申出の際には、集中押送にかかる被留置者の収容状況のみについてみても(単独押送にかかる被留置者の収容状況は不明である。)、同行室には男性被留置者C(少年)、H(少年)、I及びOが、仮監には女性被留置者B及びJ(少年)がそれぞれ収容されていたこと、CとHは共犯関係にあったこと、その後も被留置者の出入りがあったこと、押送係警察官の員数等からすれば、前記の態様の接見を実現するため、被留置者を収容替えすることは不可能であった。

また、同月一八日午前一〇時五分ころの一審原告の接見申出の際には、集中押送にかかる被留置者の収容状況のみについてみても(単独押送にかかる被留置者の収容状況は不明である。)、同行室には男性被留置者A、B、F、K、J、H(少年)及びI(少年)が、仮監には女性被留置者E及びGがそれぞれ収容されていたこと、Iと被疑者Aは共犯関係にあったこと、その後も被留置者の出入りがあったこと、押送係警察官の員数等からすれば、前記の態様の接見を実現するため、被留置者を収容替えすることは不可能であった。

この点につき、一審原告は、弁護人等を同行室の房内に入れて接見させることも可能である旨主張する。

しかし、刑訴法三九条一項の文言からすれば、立会人のない接見の際に物の授受を行うことはできないと解されており、物の授受が可能であるような場所や状態における接見を求める権利までは保障されていないのであるから、弁護人等を同行室の房内に入れた状態での接見を想定すること自体失当である。

また、一審原告は、少年鑑別所における弁護人等と被疑者の接見は仕切板がない状況でなされるのであるから、接見室のない広島地検庁舎内における接見も同様でなければならないとも主張する。

しかし、少年鑑別所は、本来的に少年の健全育成を図る観点から、家庭裁判所の審判や少年院等における保護処分の執行に資するための資質鑑別を任務とする施設であり、そのような施設にふさわしい設備を設けているのであるから、拘置所や警察署留置場のように捜査のために身柄を拘束している場所における接見室と同列に論じることはできない。

(二) 同行室各房は、その内外を隔てる金網部分自体に縦一・四センチメートル、横一・六センチメートルの隙間があり、右隙間を通して物の授受をすることが可能である。さらに、これとは別に縦二〇センチメートル、横一〇センチメートルの開口部も設けられており、右開口部は、房外にある蝶番で支えられ、施錠設備は設けられていないため、房外にいる人物においてこれを自由に開閉することができる仕組みになっており、容易に物の授受ができるのである。そして、前記のとおり小さい二つの房を接見の用に供するとすると、監視台から見えにくい位置となり、右開口部を利用した物の授受が行われることを未然に防止することは不可能である。

(三) 同行室は、地下一階にあり、窓のないコンクリート壁に囲まれた密閉された空間であり、全体の面積も約七三平方メートルであるから、同行室内における人声は、さほど広くない同行室内に反射・反響して大きく響くことが明らかである。そして、接見のために使用することとなる各房と監視台との近接性(小さい二つの房を接見の用に供するとすると、被疑者と弁護人等は、監視台から約二メートルの位置で接見を行うことになる。)や、隣接房との関係からすると、監視台の警察官との関係はもちろんのこと、他の被留置者との関係からみても、接見時における被疑者と弁護人等との会話の秘密性を確保することは極めて困難である。実際にも、弁護人等が接見室内の僅かな話し声の外部への漏出についてすら鋭敏に問題にするため、右のような漏出防止についても捜査機関は十分な配慮を求められているのであって、頻繁に人の出入りがなされている状況下においては(同行室使用の一日当たりの平均人数は、被留置者が一五ないし二〇人であり、押送要員数を含めると四〇ないし四五人である。)、接見時における被疑者と弁護人等との会話の秘密性を確保することは不可能である。

(四) 同行室における接見を許さなければならないとすると、当該被疑者以外の被留置者の名誉を害する事態が生じ、刑訴法一九六条の趣旨に反するといわなければならず、この点でも、同行室における接見を認めることは妥当でない。

即ち、接見を予定されている被疑者以外の被留置者にとっては、弁護人等であっても通常の一般私人にほかならないのであり、同行室における接見を許さなければならないことになると、同行室に留置されている者が誰であるかがそうした一般私人に明らかとなり、被留置者の名誉が侵害されるという事態を生じさせることになるのであって、これは、捜査関係者に対して名誉侵害行為という重大な義務違反行為を敢行させようとすることにほかならない。

なお、警察官が被留置者の氏名等を公表し、マスコミにより報道されるということは、一部の被留置者について行われるにすぎず、すべての被留置者に対して行われるわけではなく、しかも、被留置者の氏名等が公表されてマスコミにより報道されるということと、被留置者の具体的被留置状態が他に明らかになるということは、名誉侵害行為という観点からは同列に論じることはできない。

また、刑事裁判公開の原則は、捜査の結果起訴されて被告人たる地位に置かれた者に対して公正な裁判を実現するという理念から採用された原則であり、同原則を捜査段階にまで及ぼすことはできないうえに、同行室の房内において被疑者が留置されているという現実的、具体的な被留置状態が明らかになることと、刑事裁判に出頭した時点での被告人の状態が明らかになることとは到底同視し得ないものである。

(五) そもそも、被疑者を検察庁に押送する目的の主たるものは、検察官の取調べのためであり、その取調べが終了すれば、被疑者は直ちに勾留場所である警察署留置場に戻されることになっている。ここからも明らかなように、同行室は、本来、弁護人等と被疑者との接見を予定していない施設であり、このような施設であるからこそ、同行室には、各房に開口部や物の授受が可能な隙間がある金網、監視台等が存しているのである。

また、同行室に配置された押送要員たる警察官の職務は、検察官の取調べのための押送のほか、逆送(必要な取調べ等が終了した時点で、被疑者を直ちに勾留場所である警察署留置場に連れ戻すこと)、家裁送致及び少年鑑別所送致のための押送、拘置所移監のための押送、勾留質問のための裁判所への押送、被留置者の用便等のための押送といった行為までをも含む多様なものである。ところが、右各職務は、いずれも迅速かつ的確に処理することが要求されるものであるうえ、各職務行為を求められる予定時間を事前に想定しておくことが困難であるという特殊な性格を有する。すなわち、現実の捜査は、刑訴法の厳しい時間の制約のもとで、被疑者の基本的人権の保障を全うしつつ、事案の真相を明らかにしなければならないため(刑訴法一条参照)、組織的かつ効率的に行わなければならず、例えば、被疑者の取調べは、予め計画された時間に開始しないと、その後の捜査予定を大きく阻害しかねないうえ、捜査の動的性格から、裁判所における証人尋問とは異なり、被疑者の取調べが、予め計画した時間内に終了せずに、取調べ時間が延びることも稀ではないし、勾留質問のための押送要請についても、裁判官の予定等に左右されるため、これを予測することも困難である。しかも、押送要員たる警察官の要員数は、同行室における接見があることを想定せずに配置されていた。この押送要員たる警察官は右のような職務行為を第一義的に迅速、効率的かつ的確に遂行しなければならないとされているのに、唐突になされた一人の被疑者の接見設備のない同行室における即時の接見申出のために他の多くの被留置者を収容替えし直す等の作業を実施しなければならないとすると、本来の職務を後回しにせざるを得なくなってしまうのである。数人の被疑者に同様の接見申出がなされた場合は、なおさらである。

以上のような、同行室の意義及び押送要員の職責からすれば、広島地検のように接見室及び接見設備の設けられていない検察庁庁舎内の同行室において、検察官が、押送要員たる警察官に対し、弁護人等との接見を実施するために必要な措置をとるように指示又は指揮する法律上の根拠は乏しいのであるから、同行室における接見を認めなければならないとすることは、検察官に対して法律上の根拠に欠ける行為を強制することとなる。

なお、一審原告が指摘する「被疑者を留置場から検察庁に移動させたり、同庁舎内の一定場所に待機させたりすること等を命じる指示又は指揮」というのは、まさに検察官の取調べのための押送、あるいは勾留質問等を始めとする裁判所の各種判断に対応した押送を実行あらしめるために認められた「権限」であって、あくまで同行室に配置された警察官の具体的な各職務行為に対応するものにすぎないのであり、同行室において、弁護人等と被疑者との接見を実施することまでは全く予定されていない以上、検察官に接見を実現させるための指示又は指揮が可能であるとして同列に論じることができないのは明らかである。

2  青山検事の過失

(一) 国家賠償法一条一項が規定する公務員の「過失」とは、一般に違法に他人の損害を生ぜしめるという結果についての予見可能性があり、回避可能性があるにもかかわらず、結果回避のための行為義務を尽くさないことと理解されているが、その具体的適用に関しては、ある事項に関する法律解釈につき異なる見解が対立し、実務上の取扱も分かれていて、そのいずれについても相当の根拠が認められる場合に、公務員がその一方の見解を正当と解し、これに立脚して公務を執行したときは、後にその執行が違法と判断されたとしても、直ちに右公務員に過失があったものとすることは相当でないと解されている(最高裁昭和四六年六月二四日第一小法廷判決・訟務月報一七巻八号一二五九頁、同昭和四九年一二月一二日第一小法廷判決・民集二八巻一〇号二〇二八頁、同平成三年七月九日第三小法廷判決・民集四五巻六号一〇四九頁)。

(二) これを本件についてみると、弁護士会と検察庁との実務協議会において、弁護士会から検察庁に対し、接見室のない検察庁庁舎内においては弁護人等の接見ができないことを前提として、接見室の設置を求める要望が数多く出されていたこと、本件各接見拒否当時、接見室のない検察庁庁舎内における立会人なしの接見の可否をめぐっては、これを明確に肯定する裁判例や学説は見あたらず、かつ、接見室のない検察庁庁舎内における立会人なしの接見を拒否した検察官の行為が違法であるとする裁判例は全くなかったことからすると、接見室のない検察庁庁舎内において立会人なしの接見申出がなされた場合には、これを拒否するのが確立した実務の慣行であったことは明らかである。また、仮に過去において検察官の取調室等で立会人なしの接見が行われたことがあったとしても、それは当時の検察官が自ら被疑者の逃亡、自傷、物の授受及び罪証隠滅等の危険を自ら負担し、弁護人等に事実上の便宜を図ったにすぎないものであって、実務上の慣行と呼べるようなものでないことは明らかである。

そうすると、接見室がないことを理由に検察庁庁舎内における接見を拒否した青山検事の措置が違法であったとしても、青山検事はこれを適法とする確立した実務の慣行に従ったものにすぎないから、青山検事に過失があったとすることはできない。

(三) これに対し、一審原告は、日本弁護士連合会の行った検察庁での接見実態調査の結果等を根拠として、実務においては接見室のない検察庁庁舎内においても、当然接見が認められるとの運用がなされていた旨主張する。

しかし、右調査結果のうち立会人なしの接見と認められるのは、名古屋弁護士会及び山形県弁護士会の回答事例にすぎず、それ以外の回答事例はいずれも立会人のいる接見交通であるから、右調査結果は、一審原告の主張とは逆に、接見室のない検察庁庁舎内において、立会人なしの接見申出がなされた場合には、これを拒否するのが確立した実務の慣行であることを裏付けているものというべきである。

第三  証拠関係

本件訴訟記録中の原審及び当審における書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第四  当裁判所の判断

一  当裁判所も、一審原告の本訴請求は原判決が認容した限度で理由があるものと判断する。

その理由は、次のとおり付加訂正するほか、原判決第三の「争点に対する判断」欄(原判決一六枚目裏八行目から二四枚目裏五行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一六枚目裏九行目から一七枚目裏九行目までを次のとおり改める。

「憲法三四条前段は、「何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。」と規定している。この弁護人に依頼する権利は、身体の拘束を受けている被疑者が、拘束の原因となっている嫌疑を晴らしたり、人身の自由を回復するための手段を講じたりするなど自己の自由と権利を守るため弁護人から援助を受けられるようにすることを目的とするものである。したがって、右規定は、単に被疑者が弁護人を選任することを官憲が妨害してはならないというにとどまるものではなく、被疑者に対し、弁護人を選任したうえで、弁護人に相談し、その助言を受けるなど弁護人から援助を受ける機会を持つことを実質的に保障しているものと解すべきである。

刑訴法三九条一項が、「身体の拘束を受けている被告人又は被疑者は、弁護人又は弁護人となろうとする者(弁護士でない者にあっては、第三十一条第二項の許可があった後に限る。)と立会人なくして接見し、又は書類若しくは物の授受をすることができる。」として、被疑者と弁護人等の接見交通権を規定しているのは、憲法三四条の右趣旨にのっとり、身体の拘束を受けている被疑者が弁護人等と相談し、その助言を受けるなど弁護人等から援助を受ける機会を確保する目的で設けられたものであり、その意味で、刑訴法の右規定は、憲法の保障に由来するものであるということができる。

もっとも、憲法は、刑罰権の発動ないし刑罰権発動のための捜査権の行使が国家の権能であることを当然の前提とするものであるから、被疑者と弁護人等との接見交通権が憲法の保障に由来するからといって、これが刑罰権ないし捜査権に絶対的に優先するような性質のものということはできない。そして、捜査権を行使するためには、身体を拘束して被疑者を取り調べる必要が生ずることもあるが、憲法はこのような取調べを否定するものではないから、接見交通権の行使と捜査権の行使との間に合理的な調整を図らなければならない。憲法三四条は、身体の拘束を受けている被疑者に対して弁護人から援助を受ける機会を持つことを保障するという趣旨が実質的に損なわれない限りにおいて、法律に右の調整の規定を設けることを否定するものではないというべきである(最高裁平成五年(オ)第一一八九号平成一一年三月二四日大法廷判決)。

その調整の規定として、刑訴法三九条二項及び三項の規定があり、一項の接見交通権の制限を定めている。二項は、「法令で、被告人又は被疑者の逃亡、罪証の隠滅又は戒護に支障のある物の授受を防ぐため必要な措置を規定することができる。」とし、三項は、「検察官、検察事務官又は司法警察職員は、捜査のため必要があるときは、接見又は授受に関し、その日時、場所及び時間を指定することができる。」とするものである。このように、二項が「法令で」と規定し、三項にいう検察官等の具体的処分による制限を認めていないことからすると、「捜査のため必要があるとき」を除いては、検察官等が法令の明文の規定によらずに、接見交通権を制限することは、原則として許されないものと解するのが相当である。

しかし、あらゆる権利には、内在的制約があること、刑訴法三九条一項の接見交通権は、身柄を拘束されている被疑者につき弁護人等が立会人なくして接見交通をすることを保障したもの、即ち、被疑者の身柄の拘束(確保)を前提として認められた権利であることからすれば、接見交通を認めることによって、身柄の拘束(確保)を図ることがおよそ不可能である状況が出現する場合には、接見交通権を制限することも違法ではないと解さざるを得ないものである。

右の限度において、一審原告の主張は採用することができない。

以上の観点から本件をみると、検察庁庁舎内に接見室あるいは接見設備がないことをどのように考えるべきかが問題になる。

検察庁は、検察官が取調べを行う場所であって、被疑者を留置しておく施設ではなく、検察庁庁舎内において、弁護人等が被疑者に接見を求める場合は、僅少な事例であるから、財政的要因もあって、接見室あるいは接見設備の設置を専ら最優先するわけには行かない旨一審被告は主張する。

しかし、本件の場合、前記認定のとおり、被疑者Aは、〈1〉平成四年三月五日は、午前九時二九分に可部署の留置場を出房し、午後六時二五分に少年鑑別所に押送されて身柄が引き渡されたが、この間、午後三時一五分頃から午後五時四五分頃まで青山検事に取り調べられ、〈2〉同月一八日は、午前八時三四分に可部署の留置場を出房し、午後八時四〇分に少年鑑別所に身柄を移されたが、この間、午前一一時四五分頃から午後零時五分頃まで青山検事に取り調べられたことに鑑みると、被疑者Aは、取調べ前後、検察庁庁舎内に長時間にわたって留め置かれたことになる。このような状況下においては、被疑者の身柄の拘束(確保)という刑罰権ないし捜査権の行使と接見交通権の行使とを比較衡量し、内在的制約を理由とする制限の許容は慎重に行う必要がある。したがって、検察官が単に検察庁庁舎内に接見室あるいは接見施設がないことのみを理由として、接見交通を拒否することは許されず、検察庁庁舎内に、被疑者の逃亡、罪証の隠滅を防止し、戒護上の支障を生じさせることなく接見交通を実現させる場所が存在しないことを理由とする場合にのみこれを拒否することができるものと解するのが相当である。

よって、一審被告の右主張は採用することができない。」

2  原判決一八枚目表四行目の「検討することとする」の次に「(なお、一審原告は、被疑者を連行する押送車内での接見が可能であるとも主張するが、弁護人等に立会人なくして押送車内で接見を認めた場合には、被疑者による乗り逃げや籠城の危険性が生ずるおそれがあることを考慮すれば、検察官において押送車内で接見できるような措置を講ずべき義務を負うとは認め難い。)」を、同五行目の「三一の一ないし九、」の次に「三六の一、二、三七、三八の一、二、三九の一、二、四四、四七の1ないし31」を、同行の「証人青山裕」の次に「、当審証人木戸一平、当審の検証の結果」をそれぞれ加え、同九行目から同一〇行目にかけての「及び地下一階にある同行室」を「並びに地下一階にある同行室及び仮監」と改める。

3  原判決一八枚目裏一行目の「間口約三・五五メートル」を「間口約四・六五メートル」と改める。

4  原判決一九枚目表四行目から一九枚目裏六行目までを次のとおり改める。

「(五) 同行室は、警察署留置場から広島地検庁舎内に押送した被疑者を留置する部屋であり、室内に監視台と被疑者が収容される五つの房があり、大きい房(雑居房)が三室、小さい房(独居房)が二室ある。いずれの房も、房の出入口側は内外から金網の張られた鉄格子(鉄格子の間隔は縦約一・四センチメートル、横約一・六センチメートル)で仕切られており、雑居房については床面から約五〇センチメートルの位置に、独居房については床面から約二〇センチメートルの位置に、房外から開閉可能な縦約二〇センチメートル、横約一〇センチメートルの開口部(かんぬき付き)がある。また、その余の三面は、コンクリート壁になっており、雑居房については上下二か所に金網ないし鉄格子付の窓が設置されているが、独居房については窓は設置されていない。

雑居房は監視台の前方にあり、左前方の房(三号室)の間口は約三・三メートル、正面の房(四号室)の間口は約四・二メートル、右前方の房(五号室)の間口は約一・九メートルで、奥行きはいずれの房も約三・五メートルである。そして、正面の房の出入口から監視台までの距離は約二メートルである。

独居房は、監視台の左側にあり(うち三号室よりの房が二号室、その余が一号室)、間口は約一メートル、奥行きは約一・六メートルである。その出入口から監視台までの距離は約一・九メートルである。

なお、右各房の定員(目安)は、次のとおりである。

一号室  一人

二号室  一人

三号室 一〇人

四号室 一二人

五号室  六人

(六) 仮監は、拘置所から広島地検庁舎内に押送した被疑者を留置する部屋であり、室内に監視台と被疑者が収用される三つの房がある。いずれの房も、房の出入口側は内外から金網の張られた鉄格子(鉄格子の間隔は縦約一・四センチメートル、横約一・六センチメートル)で仕切られており、床面から約四七センチメートルの位置に、房外から開閉可能な縦約二〇センチメートル、横約一二センチメートルの開口部(かんぬき付き)がある。また、その余の三面は、コンクリート壁になっており、各房の上下二か所に金網ないし鉄格子付の窓が設置されている。

三つの房は監視台の前方にあり、左前方の房(一号室)の間口は約四・一メートル、正面の房(二号室)の間口は約二・四メートル、右前方の房(三号室)の間口は約二メートルで、奥行きはいずれの房も約二・五メートルである。そして、正面の房の出入口から監視台までの距離は約一メートルである。

(七) 広島地検庁舎内に押送された被疑者の留置方針は、〈1〉男性と女性、成人と少年、共犯関係にある被疑者は、分離して収容し、その他暴力団組織の関連についても配慮する、〈2〉男性成人は同行室三号室ないし五号室に収容する、〈3〉男性少年は同行室一号室、二号室及び(被疑者が二名を超える場合には)五号室に収容する、〈4〉女性は仮監に収容する、〈5〉男性についても必要に応じ仮監に収容する、というものである。

また、同行室における警察官の主たる職責は、〈1〉関係警察署から被留置者を検察庁に押送すること、〈2〉同行室における被留置者の看守にあたること、〈3〉検察官の取調べ、弁解録取に必要な被留置者の押送及び看守にあたること、〈4〉検察庁から裁判所における公判、勾留質問のための押送、家庭裁判所における審判、少年鑑別所への引渡しのための押送、拘置所移監のための押送にあたること、〈5〉検察庁から関係警察署への連戻しのための押送にあたることであり、その個別的な職務従事状況は、以下のとおりである。

ア 検事調べのための押送に従事する警察官は二人

イ 家裁送致、勾留質問のための各押送に必要な警察官は三人

ウ 同行室の房を開場して被留置者を出場させる際に対応しなければならない警察官の人数は、開場する房に収容中の被留置者の数を超える警察官数

エ 同行室監視台に従事する警察官は、平素は四人であり、房の開場、護送状況、収容被留置者数により監視警察官は増減するが、最低二人は監視台で監視に従事する。

監視にあたる警察官も、状況により押送に従事する。

なお、仮監の警察官の個別的な職務従事状況も、女性被留置者を収容する場合には男子警察官一人と収容中の被留置者と同数の女性戒護員が監視台で監視にあたるとされているほかは、同行室におけるそれと同様である。

(八) 平成四年三月五日における集中押送にかかる被留置者の収容状況及び押送係警察官数は、別表(一)記載のとおりであり、同日午後二時二〇分ころの一審原告の接見申出の際には、同行室には男性被留置者C(少年)、H(少年)、I及びOが、仮監には女性被留置者B及びJ(少年)がそれぞれ収容されていて、CとHは共犯関係にあった。

また、平成四年三月一八日における集中押送にかかる被留置者の収容状況及び押送係警察官数は、別表(二)記載のとおりであり、同日午前一〇時五分ころの一審原告の接見申出の際には、同行室には男性被留置者A、B、F、K、J、H(少年)及びI(少年)が、仮監には女性被留置者E及びGがそれぞれ収容されていて、Iと被疑者Aは共犯関係にあった。

なお、右各日時における単独押送にかかる被留置者の収容状況及び押送係警察官数は不明であるが、平成五年中の平日において同行室を使用した被留置者の一日当たりの平均人数は一五ないし二〇人であり、押送に従事した押送要員の一日当たりの平均人数は二五人であった。」

5  原判決一九枚目裏末行の「いうべきである」の次に「(なお、当審証人木戸一平の証言によれば、精神衛生診断室において身柄拘束中の被疑者の簡易鑑定を実施する場合には、押送の警察官二名が室内に入って戒護する措置を講じていることが認められる。)」を加える。

6  原判決二一枚目表八行目から二二枚目表一行目までを次のとおり改める。

「(三) 会話の秘密性の確保

同行室の各房の出入口側は、前記のとおり金網で仕切られているだけで、通常接見室に設置してある仕切板は設置されていないから、弁護人等が房外にいて房内の被疑者と接見する方法をとる場合には、接見室での接見に比して小声で会話することが可能であると認められる。

このことと、前記認定のとおり一号室と二号室とが壁で仕切られていること及び右各房と監視台の位置関係を併せると、被疑者が独居房である一号室又は二号室に収容されている場合には、右の接見方法をとることにより、隣の房の被留置者及び監視台の警察官に聞かれることなく会話をすることは可能と認められ、会話の秘密性を確保するため隣の房の被留置者を他の房に収容替えする必要があるとは認められない。

また、被疑者が雑居房である三号室ないし五号室のいずれかに収容されている場合には、同じ房の被留置者に会話を聞かれないための措置を講じる必要があるが、前記認定の各房の広さ及び右各房と監視台の位置関係を併せると、同じ房の被留置者に対して接見場所から離れた房内の位置に身を置くよう指示することにより、同じ房の被留置者及び監視台の警察官に聞かれることなく会話をすることは可能と認められ、会話の秘密性を確保するため同じ房の被留置者を他の房に収容替えする必要があるとは認められない。

これに対し一審被告は、同行室は周囲をコンクリート壁で囲まれた密閉された空間であり、物音が反響しやすい構造となっているので前記の接見方法では会話の秘密性を確保することは困難である旨主張する。

しかし、弁護人等としても同行室の静けさや押送の警察官の出入りに応じて会話の声量を調節するなどの配慮は当然するであろうから、一審被告の右主張は採用することができない。

(四) 戒護上の支障の有無

同行室の各房の出入口側が金網で仕切られていること及び前記認定の各房と監視台の位置関係を併せると、弁護人等が房外にいて房内の被疑者と接見する方法をとる場合、弁護人等と被疑者が物の授受をすることは困難であると認められ、接見を認めた場合に戒護上の現実的、具体的な支障が生じるおそれがあるとは認められない。

これに対し一審被告は、金網の隙間及び開口部から物の授受をすることが可能である旨主張する。

しかし、前記認定の開口部の位置及び構造に照らすと、弁護人等が開口部から物を授受しようとする場合にはしゃがむ、腰を折るなどの不自然な動作を強いられる(接見に先立ちかんぬきを掛けておけば、かんぬきを抜く動作も必要になる)のであるから、監視台の警察官において容易に察知できるはずであるし、金網の隙間からの物の授受についても、前記認定の各房と監視台の位置関係からすれば、監視台から肩や手の動きを注視し、必要に応じて監視位置を変えるなどすることにより、物の授受を防止することは可能であると認められるから、一審被告の右主張は採用することができない。

(五) 留置管理業務への影響

弁護人等が房外にいて房内の被疑者と接見する方法をとる場合、隣の房の被留置者ないし同じ房の被留置者を他の房に収容替えする必要がないことは前記(三)のとおりである。

もっとも、この場合でも、監視台の警察官のうち少なくとも一名は、物の授受を防止するため弁護人等の動静を注視していなければならないのであり、必要に応じて監視位置を変える場合を併せ考慮すれば、同行室内での接見を認めた場合に、監視台の警察官にとって監視の負担が増大することは明らかである。

また、被疑者が雑居房である三号室ないし五号室のいずれかに収容されている場合には、同じ房内の被留置者の行動についても前記の制約が生じることになるから、接見中に同じ房内の被留置者の出房を要することとなった場合には、その押送事務に影響が生じることも避けられないと考えられる。

しかし、監視の負担の増大については、監視の負担を軽減するため、接見に先立ち必要な範囲で弁護人等の身体検査を行ったり、弁護人等に接見に際して手を後ろに組むよう求めたりなどすることは、強制にわたらない限り可能と考えられるし(監獄法施行規則一二七条一項ただし書、二項、被疑者留置規則二八条一項)、同じ房内の被留置者の押送事務に影響が生じる場合には、接見の一時的な中断を求めることも、強制にわたらない限り可能と考えられる(弁護人等としても、このような合理的な理由に基づく要請に対しては柔軟に対応することが望まれる。)。

以上の点に、通常考えられる所要接見時間を併せるならば、同行室内での接見を認めた場合に、前記の問題が生じるからといって、その管理運営に現実的、具体的な支障が生じるおそれがあるとまで認めることはできない。」

7  原判決二二枚目裏二行目の次に改行して次のとおり加える。

「一審被告は、〈1〉同行室での接見を認めると、他の被留置者が弁護人等の目に触れることになり、他の被留置者の名誉が侵害される、〈2〉検察官が押送要員に対し同行室での接見を実施するために必要な措置を講じるよう指示又は指揮する法律上の根拠がないなどとも主張する。

しかし、〈1〉については、同行室での接見を認めた場合に、他の被留置者が弁護人等の目に触れることは一審被告の主張するとおりであるが、被疑者の身柄の押送等に際して身柄拘束の状況が一般私人の目に触れる場合もままあること及び接見交通権の重要性に鑑みれば、接見交通権の保障のため他の被留置者の右程度の名誉が制約されてもやむを得ないと解される。

また、〈2〉についても、弁護人等から接見の申出を受けた検察官は、刑訴法三九条三項の指定権を行使しない場合には、速やかに弁護人等を被疑者と接見させる義務を負っているところ、前記のとおり弁護人等の接見交通権にも被疑者の身柄の拘束・確保の観点からする内在的制約が存することに鑑みれば、接見に際して逃亡、不法な物品の授受その他の事故を防止する必要がある場合には、検察官は押送要員に対し必要な戒護上の措置を講じるよう指示ないし指揮する権限と義務を有するものであり、押送要員が検察官の指示ないし指揮を拒否することはできないものと解するのが相当である。

よって、一審被告の右各主張はいずれも採用することができない。」

8  原判決二四枚目表八行目の「違法であり、」から同一〇行目の「った」までを「違法であった」と改める。

9  原判決二四枚目表末行から二四枚目裏五行目までを次のとおり改める。

「三 青山検事の過失

1  一審被告は、本件各接見拒否当時、接見室のない検察庁庁舎内において立会人なしの接見申出がなされた場合には、これを拒否するのが確立した実務の慣行であったから、これに従った青山検事には過失がなかった旨を主張し、その根拠として全国各地の弁護士会と検察庁との実務協議会の協議内容等を指摘しているので、以下検討する。

2  証拠(甲三、四、二二ないし二七の各一、二、乙一、四〇ないし四三、原審証人石口俊一、同小野裕伸、原審の第一回一審原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、本件各接見拒否の前後における全国各地の弁護士会と検察庁との各種協議会の協議内容、これについての各弁護士会の認識及び接見室のない検察庁庁舎内での接見の実状等について、以下の事実を認めることができる。

(一) 昭和六三年二月五日、札幌地方裁判所において、第一審強化方策札幌地方協議会が開催された際、札幌弁護士会側から、「検察庁は、被疑者が検察庁舎内に在庁している間は、弁護人の接見を認めない取扱をしているようであるが、右の場合においても、弁護人の接見を認めるよう御配慮願いたい」との要望があったのに対し、札幌地方検察庁側が、「検察庁に被疑者の身柄を押送するのは、取調べの必要があるからであり、通常弁護人が接見する時間的余裕は生じないため、在庁中に弁護人が立会人なく被疑者に接見できるような施設を用意していない。緊急に接見を要する事情がある場合にその旨の申出があれば、従来どおり捜査に支障がない限り、早期に帰房させるなどの便宜を図ることとしたいので、警察署留置場等で接見するようお願いしたい」旨回答したところ、札幌弁護士会側も、「了承。なお、検察庁の施設に余裕ができた際には、接見室を設けられるよう御配慮願いたい」と応答した。

なお、右協議会についての札幌弁護士会の認識は、「被疑者の身柄が検察庁内にある場合にも接見場所を確保して速やかに庁舎内で接見させるべきであると理解していた」というものである。

(二) 平成元年二月一日、甲府地方裁判所において、第一審強化方策甲府地方協議会が開催された際、山梨県弁護士会側から、「身柄付被疑者・被告人との接見についての場所がないので、裁判所、検察庁において接見室の設置を配慮していただきたい」との要望があったのに対し、甲府地方検察庁側は、「検察庁としましては、被疑者は取調べのための身柄の押送ですので、検察庁においての弁護人との接見は予定しておりません。したがって、今後とも接見室の設置は考えておりませんので、本問は御容赦いただきたいと思います」旨回答した。

なお、右協議会についての山梨県弁護士会の認識は、「裁判所の勾留質問室や検察庁の取調室で接見した事案も多くはないが、報告されている。しかし、これらの事例は、個々の弁護人の努力によるものであり、また、決して充分な接見交通権が保障されたとも言い難い状況での接見であったとの報告である。憲法で保障された接見交通権を確立するため、裁判所であれ、検察庁であれ、庁内に被疑者・被告人が在庁し、質問、取調等がなされていない場合、自由に接見できる施設を設置し、その体制を整えるべきと考え、・・・本問題を提起した」というものである。

(三) 日本弁護士連合会の接見交通権確立実行委員会を中心に組織された接見交通に関する協議交渉団と法務省との間で開催された協議会において、平成三年三月一三日に取りまとめられた「見解の集約」の中で、日本弁護士連合会側が、「検察庁の既存の接見室の利用及び接見室の新設を計るべきである」旨表明したのに対し、法務省側は、「人員の問題がある。戒護その他は押送の問題であり、例えば、東京地方検察庁の接見室についても、警視庁と協議しなければならない」旨応答した(「自由と正義」四二巻六号八五頁)。

なお、右協議会についての日本弁護士連合会の認識は、「接見室が設備されていない検察庁においては、接見ができない旨を前提としてなされたものではない。また、当時の日弁連側の認識としても、接見室が設備されていない検察庁においては(権利として)接見ができない、との理解がなされていたものではない。ただし、当時接見室のない検察庁においても各地で接見を行っているとの報告もなされていたものの、接見室がないためにトラブルが発生する等の事態もあったため、本件のような提案をしたものである。しかし、そのことと、日弁連がそのような状態を容認していたかということは全く別問題である」というものである。

また、平成五年六月二二日に行われた日本弁護士連合会接見交通権確立実行委員会全体会議の場で、検察庁での接見等について各地弁護士会に対するアンケートの結果報告がなされたが、それによると、接見室のない検察庁において接見が認められた事例として、「接見室はないが待機室/事務室での例あり10ないし15分」(群馬)「弁選とるため取調室で接見する例あり」(長野)「検事室たまり場ほか庁内接見例あり」(大阪)「検察官の裁量により取調室、弁護人控室での接見が稀に許可」(京都)「担当検事の判断で仮監、検事室、同行室の例あり」(神戸支部)「担当検察官の判断により検察官が取調室から退出して接見することあり」(名古屋本庁)「空室で接見」(名古屋一宮支部)「接見室はないが可能、空いている部屋で/検察事務官の立会い要求例あり」(金沢)「特に接見室はないが接見自体を拒むつもりはないとの地検回答」(鹿児島)「接見室はないが申出あれば控室や空室で可能」(宮崎)「接見室はないが便宜は計る、押送の警官が接見する部屋の外や中で待機する、メモはとらない」(福島郡山支部)「同行室等空室で立会なしで接見可能」(山形)「同行室で接見できる」(青森)「他室で可能」(函館)「接見は可能、検事室で」(旭川)「原則不可、担当検事の判断で認められた事例有り」(高知)「検察官に折衝し別室で接見した事例あり」(松山本庁)等の回答がなされている。

(四) 平成三年一〇月五日、広島地方裁判所において、第一審強化方策広島地方協議会が開催された際、広島弁護士会側から、「検察庁内に接見室を設置されたい」との要望があったのに対し、広島地方検察庁側は、「提案の趣旨は分かるが、庁舎の実情や戒護の問題があり、要望には応じかねる。検察庁への押送は、検事の取調べのためであり、弁護人との接見は予定されていない。取調べ終了後は速やかに身柄を勾留場所に戻すので、勾留場所で接見していただきたい」旨回答した。

なお、右協議会についての広島県弁護士会の認識は、「接見室のない検察庁において、接見ができないとの理解を前提としたものではない。当時当会会員が広島地方検察庁において取調室等で接見を行ったとの事案は、当刑事弁護センター委員会に数多く報告がなされている。・・・接見室が設置されている地検もあるとの情報があったことから、広島地方検察庁においても接見室が設置されることにより、より接見が容易かつ秘密交通権が確実になることを期待し、右のような要望を行った」というものである。

また、広島地方検察庁庁舎内においては、少なくとも、昭和五六年一二月、昭和六三年ころ及び平成五年一月に弁護人等が検察官執務室(取調室)において被疑者と立会人なくして接見した事例がある。

(五) 平成四年一二月七日、大阪高等検察庁において、平成四年度司法事務協議会が開催された際、大阪弁護士会側から、「拘置所に在監中の被疑者については、検察庁地下の仮監の接見室で弁護人の接見ができることを、なお一層各検察官に周知徹底していただきたい。また、代用監獄に在監中の被疑者についても、検察庁で接見できるように検討をしていただきたい。後段については、検察庁地下の大阪府警本部留置場には接見室がないので、御検討いただきたい」との要望があったのに対し、大阪地方検察庁側が、「前段については了承。後段については、要望に応じかねる。接見室を作る場所的余裕がなく、また、調室等における接見も被疑者の逃走防止等の観点からなじまない」旨回答した。

なお、右協議会についての大阪弁護士会の認識は、「拘置所在監・代用監獄在監のいずれの被疑者についても、検察庁内においても接見ができることを前提とし、拘置所在監の被疑者については接見室があることを検察官あるいは検察庁職員に対しより周知徹底させるために、そして代用監獄在監の被疑者についても、接見室が存在しない現状を前提として接見室での接見に代わる方法での接見が出来るよう求めるために出題した」というものである。

また、大阪地方検察庁における、弁護人接見の実状は概ね以下のとおりである。

(1) 大阪拘置所在監の被疑者については、大阪地方検察庁内(地階)の大阪拘置所仮監に接見室があり、接見室において接見がなされている。

(2) 警察署代用監獄在監の被疑者については、大阪地方検察庁内(地階)の大阪府警本部留置場には接見室はないが、必要に応じ右留置場内において警察官の詰所と留置施設の金網越しに面談をしたり、担当検事の取調室あるいは空室の取調室で接見をしたりするケースあるいは各階の待合室で接見をするケースもある。

(六) 平成五年九月二七日、名古屋地方裁判所において、第一審強化方策名古屋地方協議会が開催された際、名古屋弁護士会側から、「名古屋地方検察庁の庁舎内において、弁護人が被疑者と接見する必要がある場合があるので、そのための施設を確保されたい」との要望があったのに対し、名古屋地方検察庁側が、「名古屋地方検察庁の庁舎内において、接見室を確保することは困難である。将来的には、要望として承っておきたい。取調室において、被疑者の接見を認めるかどうかについては、一般的には、被疑者の戒護等の問題もあるので認められない。検察事務官等の立会いを条件とする申出については、接見の必要性等を考慮し、具体的事件において個別に検討したい」旨回答したところ、名古屋弁護士会側も、「了承した」と応答した。

なお、右協議会についての名古屋弁護士会の認識は、「接見室のない庁舎内では接見の申立を拒否されてもやむをえないという考えに基づいてなされたものではありません。むしろそのような考えを検察庁がもっているので、それならば、接見室を庁舎内につくるべきだと要求した」というものである。

3  右2で認定した事実によれば、本件各接見拒否がなされた当時の接見室のない検察庁庁舎内における接見については、同行室や検察官執務室(取調室)で立会人なしの接見が認められた事例もあったものの、他方で接見室がないとの理由で接見を認めない扱いをする検察庁ないし検察官も存在しており、そのことが全国各地の弁護士会及び日本弁護士連合会において問題視されていたという状態であったと認めるのが相当であり、接見室のない検察庁庁舎内において立会人なしの接見申出がなされた場合には、これを拒否するのが確立した実務の慣行であったと認めることはできない。

4  そこで次に、青山検事において、検察庁庁舎内に接見室がない場合には、そのことのみを理由として接見を拒否できると考えたことが相当であったかどうかについて検討する。

(一) まず、学説裁判例についてみると、本件の前後を通じ、検察庁庁舎内に接見室がない場合には、そのことのみを理由として接見を拒否できる旨明言した学説裁判例は存在しない(その存在を認めるに足りる証拠はない。)。

(二) 逮捕中の被疑者について適用される被疑者留置規則によれば、接見は原則として接見室においてこれを行わせるものとされているが(同規則三二条)、昭和四〇年一〇月警察庁刑事局の「逮捕留置中の被疑者と弁護人の選任および接見交通について」と題する通達によれば、「弁護人または弁護人となろうとする者と被疑者との接見は、原則として接見室において行うこと。接見室を設けていない警察署等における弁護人と被疑者との接見については、逃亡、不法な物品の授受その他の事故を防止するため監視の警察官を配置することは差し支えないが、この場合接見当事者の会話の聞えないようなところで監視するよう配慮すること」と規定されており(同六項)、接見室のない警察署等においても戒護上の措置を講じたうえで、立会人なしの接見がなされるべきことを明文で定めている(甲一二)。

(三) 裁判所構内における被疑者と弁護人等との接見については、「接見設備等が・・・十分でないところでは裁判所による指定はやむを得ない。しかし、この場合も、弁護人等において接見の申出を維持する限り、接見設備がないことのみを理由として接見をさせないということは問題であろう」と指摘する文献が存在している(甲二一)。

5  右4で検討したところと前記3を併せると、検察庁庁舎内に接見室がない場合には、そのことのみを理由として接見を拒否できると青山検事が考えたことについて相当な理由があったと認めることはできない。

したがって、青山検事には、検察官として尽くすべき注意義務を怠った過失があったと認められる。

四  一審原告の損害

証拠(甲一、二、原審の第一、二回一審原告本人)によれば、弁護士である一審原告は、青山検事の前記各接見拒否により接見交通権を侵害され、このため弁護活動を十分行うことができなかったことについて精神的苦痛を被ったことが認められる。

そこで、慰謝料の額について検討するに、前記第二の一の事実によれば、一審原告は、一回目の接見拒否の際には、前日の接見の際に被疑者Aから意に反する供述をさせられそうになっているなどと聞かされたことから、勾留に対する準抗告を申し立て、その結果勾留場所が少年鑑別所に変更されたことを早く被疑者Aに伝えて同人を元気づけようと考えたため、接見を申し出たものであり、また、二回目の接見拒否の際には、第二被疑事件についての弁護人選任届を被疑者Aから受領しておらず、また、同人が前日までの接見の際に被疑事実を否認しており、再度黙秘権について教示する必要があると考えたため、接見を申し出たものであって、いずれの接見についても接見の必要性及び緊急性はあったと認められる。

しかし、前記各証拠によれば、一審原告は、一回目の接見拒否の際には当日少年鑑別所において、二回目の接見拒否の際も当日裁判所の接見室において接見したこと、一回目の接見拒否の際には、一審原告の接見申出から少年鑑別所での接見までの間に青山検事による被疑者Aの取調べが行われ、検察官調書が作成されているが(乙一一)、一審原告は、その後の少年審判の場では右調書の任意性を争ってはいないことが認められ、右各接見拒否により少年審判に影響がなかったことは、一審原告の自認するところである(原審の第一回一審原告本人)。

以上の点を併せ考えると、慰謝料の額は一〇万円をもって相当と認める。」

二 結論

以上の次第で、一審原告の本訴請求は、一審被告に対し、右一〇万円及びこれに対する二回目の接見拒否の日である平成四年三月一八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を求める限度で理由があるから認容し、その余は失当であるから棄却すべきである。なお、仮執行宣言は必要がないから付さないこととする。

よって、これと同旨の原判決は正当で、本件各控訴はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法六七条一項、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

別表(一)

平成4年3月5日の同行室出入り状況等一覧表

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

別表(二)

平成4年3月18日の同行室出入り状況等一覧表

〈省略〉

〈省略〉

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